言語教育と言語管理 Language management in language education

言語教育と言語管理部会      加藤好崇

かつて故ネウストプニー先生が日本から来たモナシュ大の大学院生たちに、「自分のことをたくさん話す先生はいい先生です」とよくおっしゃっていました。これは学習者にとって日本人との実際の「インターアクション」が大切であることを意味していたと思います。

「インターアクション」、この用語が本部会のキーワードの一つになると考えます。しかし、グローバル化が進み、変容していく社会の中では、この「インターアクション」の意味も変わって行かざるを得ません。同時に「インターアクション能力」、インターアクション能力の習得に向けた「インターアクション教育」も新しい視点で考察していく必要があるでしょう。

社会の変容はもう一つの大きなキーワード、「接触場面」にも影響します。もはや誰にとっても接触場面が珍しいことではなくなった現在、学習者のカテゴリーも、さらには「教育」ということばさえも従来とは異なる枠組みが必要になるかもしれません。

本部会では、この「インターアクション」「接触場面」を二大キーワードとし、日本語教育の発展に寄与していきたいと考えています。

2018年度の活動

2018年度 言語管理研究会「言語教育と言語管理」分科会

日時:2018年9月1日(土)14:00-16:00
場所:東海大学高輪校舎1201教室
テーマ:「技能実習生を取り巻く接触場面-日本人とのインターアクション能力の向上を視野に入れて-」

○話題提供1
「『外国人技能実習制度』とその下で来日する人々の仕事と生活-インタビューデータより-」上田潤子(早稲田大学日本語教育センター)

○話題提供2
「技能実習生の『生活者』としての接触場面とインターアクション能力を考える-授業記録の振り返りを通して-」福村真紀子氏(早稲田大学大学院博士後期課程)

○話題提供3
「技能実習生と日本人のインターアクション能力向上に向けて-日本語教育ができること-」中野玲子氏(早稲田大学日本語教育研究センター)

上田潤子氏には「外国人技能実習制度」の概要説明してもらい、その後、インタビューデータから見えた技能実習生の仕事と生活それぞれの場面におけるインターアクションについて考察してもらった。
福村真紀子氏には、技能実習生に対して行った日本語授業での様々な活動を振り返り、かれらを「生活者」として捉える視点の重要性を示しながら接触場面とその場面で求められるインターアクション能力について考察し、今後彼らに対してどのような日本語教育を目指すのかを考察してもらった。
中野玲子氏には、前2つの発表を受け、技能実習生の職場と生活の場に必要なインターアクション能力を養成するために日本語教育ができることを考察してもらった。また、ジャパンリテラシーは技能実習生のみに必要な能力なのかについて議論が行われた。

2017年度の活動

2017年度 言語管理研究会「言語教育と言語管理」分科会

日時:2017年9月2日(土)14時-16時
場所:東海大学高輪校舎4号館3階4305教室

テーマ:留学生とインターアクション能力

話題提供:加藤好崇(東海大学)
<第1部>
講演1:「ケース教材を用いた日本語教育実践とインターアクション能力」宮﨑七湖(新潟県立大学)
講演2:「留学生のキャリア形成とインターアクション能力」中井陽子(東京外国語大学)
<第2部>パネルディスカッション
司会:竹内明弘(国際大学)
登壇者:宮﨑七湖、中井陽子、中山由佳(早稲田大学)

概要:本部会第1回目において、インターアクション能力そのものに時代の変化に呼応する部分が存在するのではないかという議論が行われた。第2回目である2017年度部会では、現在の大学で学ぶ留学生に限定して、どのようなインターアクション能力が必要であるのか、またその教育法について、大学における留学生教育に携わっておられる宮﨑七湖氏と中井陽子氏のお二人に講演を依頼した。
宮﨑氏は留学生に判断や対処を求めるケースを与え、留学生自身で問題発見・解決を行っていくケースメソッド教授法について紹介し、その上で、留学生が参加する接触場面で必要な能力とは何かついて議論を行った。また、中井氏は留学生がキャリア形成を行っていく上で必要となる能力、資質について説明し、それらをインターアクション能力に即して分類を行った。また、キャリア形成を行う上での問題解決には母語話者側の歩み寄りが必要である点についても説明した。
最後のパネルディスカッションでは講演者の内容をもとに観客からの質問を受け、それに回答する形で登壇者間で活発に議論が行われた。

2016年度の活動

2016年度 言語管理研究会 分科会合同研究会

日時:2016年12月17日(土)11時-17時
場所:青山学院大学青山キャンパス 総研ビル(大学14号館)10階 第18会議室

テーマ:
ジャパン・リテラシー再考―1990年代モナシュ大の日本語教育と現在の日本語教育の比較から―

(概要)J.V.ネウストプニーは社会文化能力・社会言語能力・言語能力の配分の違いから、日本語教育の三種類のフレームワーク、「ジャパン・リテラシー1」「ジャパン・リテラシー2」「ジャパン・リテラシー3」を提示した。このフレームワークを利用することで、この種類の学習者であればジャパン・リテラシーはこの程度であろうとか、どの能力が必要であるのか、といった大枠をシラバス作成者は事前に得ることができる。しかし、以前と比べ、社会、技術、文化などすべての状況が大きく変化している現在、もはや容易に学習者を定義することが難しくなってきていると思われる。本部会発表では、1990年代のモナシュ大での日本語教育を振り返った上で、現在の日本語学習者のジャパン・リテラシーについて考えた。

1.「1900年代モナシュ大学日本語プログラムを振り返って」中山由佳(早稲田大学)

1990年代初頭におけるオーストラリアの大学機関の吸収合併と、日本語ブームの波により、メルボルンのモナシュ大学は90年代後半には4つのキャンパスで日本語コースを開講するまでになり、日本研究科はかなりの数の日本語学習者数を抱えることとなった。
このモナシュ大学における日本語プログラムは、ネウストプニー教授の提唱するインターアクション能力育成を目指して設計された。それは言語能力、社会言語能力、社会文化能力のすべての能力の習得を目指すジャパン・リテラシー3を目指すプログラムであり、また、メルボルンにおける日本人との接触場面を想定し、可能な限り実際使用の場を設定するという画期的なものであった。

2.「ジャパン・リテラシーと国内の留学生に対する日本語教育の振り返り」竹内明弘(国際大学)

ネウストプニー(1995)は日本語教育で養成すべき能力をジャパン・リテラシー(以下JL)1、2、3とし、各JLを構成する要素を言語、コミュニケーション、インターアクションの各能力と関係づけて提示した。
この枠組みの各リテラシー・能力は、「程度の問題」(同上)とあるように、実際に学習者が希望する、あるいは教師がコース設計に取り入れるJL・能力をどのように線引きするかが難しくなってきている。これは国内の教育機関で進む英語公用語化や留学生のネットワークの拡大、留学生の来日目的の多様化などが原因と考えられるが、とりわけJL2を希望・必要としている学習者にまで「言語能力が提供され、能率的な教育ができない」(ネウストプニー1995:18)でいる問題は広がりを見せている。
本発表では筆者が行ってきたニーズ分析とコース設計の実践や学習者の事後コース・教師評価の記録などを日本語能力とJLの枠組みを参考にして振り返り、考察するものである。

「東京都墨田区における「外国人介護ヘルパーのための日本語支援教室」実践から
―誰がどのようなリテラシーを習得したのか―」中野玲子(すみだ日本語教育支援の会)

接触場面の多様化に伴い、接触場面の参加者が習得するリテラシーも多様化している。本発表では、東京都墨田区における「外国人介護ヘルパーのための日本語支援教室」における実践から、教室参加者が習得した市民リテラシーについて考察する。
外国人介護従事者(NNS)は、言語能力に加え、高齢者とラポールを形成するリテラシーや日本語で業務遂行するリテラシーを習得した。加えて、地域の仲間として受容された結果、地域への関わりを主体的に意識する実践共同体参加者へと変容した。一方、日本語ボランティアや日本人介護従事者(NS)は、NNSを地域や職場の仲間として受容するプロセスを経て、自身の問題に対して、主体的に「自分に何ができるのか」と意識する実践共同体参加者へと変容した。NNS/NS双方が、主体的な実践共同体参加者へと変容するプロセスで習得したのが市民リテラシーである。
接触場面からリテラシーが習得可能な主体はNNSとNSの両者であり、日本語教育の対象として、NSも考慮すべきであろう。また、市民リテラシーとは、NNSにもNSにも求められる共生社会を共に創造するために必要なリテラシーであるといえよう。

「4000万人時代の「訪日外客」のジャパン・リテラシー」加藤好崇(東海大学)

2016年、日本を訪れる外国人観光客は初めて2000万人を突破した。ビジット・ジャパン・キャンペーンが開始された2003年当時の観光客数が約521万にであったので13年間で4倍近くも増加したことになる。また、数十年前の団体旅行に代表されるいわゆる「環境バブル」の中で移動する旅行形態から、現在はより日本文化に浸ろうとする個人客が増加しており、日本人との接触場面も様々な場面で飛躍的に増加している。
この変化は旅行者のジャパン・リテラシーの変化にもつながる。これまで英語で会話をし、ホテルでの宿泊を基本としていた時代ではジャパン・リテラシー1で十分であったろうが、現在はより高度なジャパン・リテラシーが求められるようになってきた。
しかし、こういった外国人観光客のジャパン・リテラシーの変化の中では、むしろそれを受け入れるホスト社会である日本側がそれに見合った受け入れ体制や意識改革も必要であり、観光接触場面におけるホスト側のジャパン・リテラシー変革も求められるようになってきた。