言語政策と言語管理 Language management in language policy

言語政策と言語管理部会 木村護郎クリストフ

日本の言語政策研究は、これまで、国家や自治体など、政府・行政レベルの取り組みの研究が中心でしたが、近年、現場の実情をふまえた、ミクロな視点を(あわせ)もつ言語政策研究の意義が強調されるようになっています。

まさに、マクロ偏重の言語政策研究への疑問から生まれたという側面をもつ言語管理の理論の出番です。

しかし、言語管理の研究において言語政策にまでつなげる研究はまだ少なく、大きな発展の余地があります。

この部会では、萌芽的に表れてきている、現場重視の言語政策研究を言語管理の発想や研究の蓄積とつなげて育てていくことを目指したいと思います。

「部会」という名称にはなっていますが、分派活動をするつもりではなく、いろいろな観点から他の部会や関心をもつ人たちと協力して全体として言語管理研究を発展させることができればとおもいますので、どうぞご協力・協働よろしくおねがいいたします。

2018年度の活動

2018年度 言語管理研究会「言語政策と言語管理」分科会
(上智大学国際言語情報研究所と共催)

日時:2019年3月23日(土)15時-17時
場所:上智大学四谷キャンパス中央図書館L-821

テーマ:「英語教育の言語政策に関わる言語管理-インテレストとパワーの観点から-」

司会:木村護郎クリストフ(上智大学)
報告者:リサ・フェアブラザー(上智大学)
指定討論者:サウクエン・ファン(神田外語大学)

報告者からは、特に高校の英語教育に焦点を当て、どのような問題意識が言語政策作成の引き金となったのか、また政策が具体的にどの程度実施されているのかが紹介された。そして、公的資料および先行研究の結果の分析に基づき、インテレストとパワーがこれらのプロセスにどのような影響を及ぼすのかが検討された。その後、指定討論者によるインテレストとパワーに関する研究状況の整理と問題提起をうけて、グループに分かれて議論が行われ、最後にその主な論点などをみなで共有した。言語管理プロセスに基づいて言語政策を分析する意義と方法について理解が深まり、大変有意義であった。計40名ほど参加者があった。

2017年度の活動

2017年度 言語管理研究会「言語政策と言語管理」分科会
(上智大学国際言語情報研究所と共催)

日時:2017年12月9日(土)15時-17時
場所:上智大学四谷キャンパス中央図書館L-821

テーマ:社会公用語としての英語をめぐってー外資系企業における言語管理プロセス

司会:猿橋順子(青山学院大学)
報告者:薗田浩樹(青山学院大学大学院修士課程)
指定討論者:上村圭介(大東文化大学)

企業の英語化が注目されている一方で、社内コミュニケーションの実証的な研究はことのほか少ない。この研究会で報告された研究は英語を社内公用語と位置づける企業の会議を事例として、会議内の言語管理プロセスを抽出し分析するものであり、その知見をもとに、指定討論者および参加者との議論によって、組織の多言語管理のあり方が論じられた。

30名ほどの参加者があり、外資系企業の会議における英語と日本語の使用について、よく整理されたデータにもとづく刺激的な考察、多角的な観点からの的を得たコメント、そして手際良い司会者と関心の高い聴衆、という大変充実した研究会であった。

2016年度の活動

2016年度 言語管理研究会 分科会合同研究会

日時:2016年12月17日(土)11時-17時
場所:青山学院大学青山キャンパス 総研ビル(大学14号館)10階 第18会議室

テーマ:ミクロとマクロをつなぐために

部会の趣旨:
言語管理の理論は、ミクロとマクロの次元をつなぐ包括的な枠組みを提供することが一つの眼目である。現在まで、談話や相互行為から言語政策まで、プロセスに焦点をあてて統合的に扱う理論的な枠組みは他に存在しないといっても過言ではないだろう。本分科会の発表では、そのような言語管理研究の可能性をさらに活かすために、調査の現場と理論の両面からの問題提起を行った。

発表1「異国フェスの言語管理―SNSからフェス場まで」
・・・・・・・・・・・・・・猿橋 順子(青山学院大学)
要旨:
週末になると都心の大型公園では様々な国名や地域名、外来の文化名を冠した、祭り、フェスティバルが開催される。2016年、東京都渋谷区の代々木公園では、アイルランド、アフリカ、アラビア、インド、インドネシア、カンボジア、コートジボワール、スペイン、タイ、台湾、ネパール、ブラジル、ベトナム、ラオスの名を冠したフェスティバルが開催されている。これらの「異国フェス」には計画的/即興的、戦略的/恣意的、個人的/組織的な言語管理が観察可能である。
本発表では台湾フェスタのステージトークを具体例として言語管理の表層の分析を試みた。演者は台湾らしさの演出のために中国語を併用したり、日本語と台湾の先住民族語に共通の言語文化を参照したりする。さらに、聴衆の参加を促す場面で管理行動はより多面的になる。聴衆が台湾先住民族の歌を歌う際に感じるであろう不安や違和感を先取りし、説明を加えていた。
事例分析を通して、異国フェスでの言語管理は、参加者の言語背景が予測できないこと、ホスト―ゲストの関係が流動的なことから柔軟な対応が求められる。他方で言語管理がホスト―ゲスト関係を決定する場合もあることが確認された。また、異国フェスの場は物理的な場とSNSで展開される場が断続的に接点を作り出す。この複合性が言語管理に及ぼす影響など、異国フェスにおいて探求すべき研究課題は多く認められる。

発表2「言語管理プロセス再考―「事後評価」の段階について」
・・・・・・・・・・・・・・木村 護郎クリストフ(上智大学)
要旨:
言語管理の理論の骨格をなす過程モデルを、経営管理や(言語)政策・教育など、他の過程モデルと比較すると、言語管理の過程モデルは管理過程の発動(留意→評価)に関する段階の分析に強みがあることが確認できる。一方、とりわけ実施後の帰結については理論枠組み上、関心が弱く、またほかのモデルに比べて円環形(サイクルモデル)になっていない。言語管理の理論が、接触場面における過程の一部を扱うことに特化した枠組みにとどまらず、その名のとおり人間の言語活動の一環である「言語管理」を包括的に扱う汎用的な理論であろうとするならば、実施後の段階をどう考えるかという課題は避けて通れないだろう。
そこで、過程モデルの「実施」段階のあとに、「ふりかえり(事後評価)」の段階を設定することについて検討した。自他の行動についてふりかえることは、人間の基本的能力であり、日常的にも政策的にも行われている。この段階に注意を向けることによって、管理過程の分析力を高められる、連続する管理過程相互の関係をよりよく把握できる、人間の行動管理に関する他の理論との接合を可能にする、といった利点が得られることを提起した。