接触場面と言語管理 Language management in contact situations

接触場面と言語管理部会 高 民定

近年、日本には多様な言語背景をもつ外国人居住者が増えてきており、彼らが参加する接触場面をめぐる言語問題と言語管理はますますと複雑で多様化しています。それだけ、今後、接触場面研究が注目しなければならない視点や課題も増えていることだと思われます。

「接触場面」という用語が言語管理研究だけではなく、関連する研究分野においても広く使われるようになった今であるからこそ、改めて接触場面の用語や研究の意義を振り返りながら、多様化する接触場面研究の課題と向き合うことはとても大事なことであると思います。

「接触場面と言語管理」部会では、今後、これまでの接触場面研究の問題意識や課題を振り返りながら、またこれまでのように周辺の多様な理論や研究とも向き合いながら、さらに、研究を発展させていくための様々な研究活動や提案を展開していきたいと考えています。皆様からの接触場面研究や部会活動についてのご意見やご提案もお待ちしていますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

2018年度の活動

2018年度 言語管理研究会「接触場面と言語管理」分科会
(協力:日本質的心理学会研究交流委員会)

日時:2019年2月16日(土)14:00-17:00
場所:一橋大学国立キャンパス 国際研究館 4階 大教室
テーマ:「多様化する接触場面への質的アプローチ」
話題提供1
「ミクロの事象からマクロの社会を見る:フィールドの意味を記述する質的研究法」
八木真奈美(駿河台大学)
話題提供2
「接触場面に向かう言語管理の通時的プロセスを分析するための方法論:日本の韓国人移住者の言語バイオグラフィー調査の事例から」
今 千春(神田外語大学)

八木真奈美先生には、エスノグラフィー調査の概論をはじめ、調査方法の意義、また実例として日本に住む移住者を対象としたエスノグラフィー調査の例を取り上げていただきました。フィールドでは、現実を織り成すさまざまな意味が交差すること、またその意味の交差を紐解いていくことで、多元的な社会を記述することの意義を再考することができました。
今千春先生には、まず個人の歴史性を探るための代表的な研究方法として、ライフヒストリー研究をはじめ、ライフストーリーの調査、言語バイオグファフィー調査のそれぞれの特徴と位置づけを概観していただきました。その後、移住者の言語管理を通時的な文脈から理解するための方法として言語バイオグラフィーを取り上げ、韓国人居住者の例をもとにその特徴と分析の意義について分かりやすく解説していただきました。
2人の先生の話題提供の後は、指定討論者によるディスカッションがあり、会場からの質問を受け、話題提供者による回答と意見交換がなされました。様々な分野からの質的調査に関する悩みが報告・共有され、多様化する接触場面への質的アプローチの意義を改めて考え、理解することができ、大変有意義な会でした。当日参加者は日本質的心理学会学会員を合わせ、約40名ほどでした。

2017年度の活動

2017年度 言語管理研究会「接触場面と言語管理」分科会

日時:2018年3月3日(土)14:00-16:00
場所:神田外語学院 3号館4階 3-401教室

全体テーマ:多様化する社会の接触場面研究の新たな課題を考える

総合司会:福永由佳(国立国語研究所)

講演1:「外国語使用の多様化から接触場面研究の行方を考える」
サウクエン・ファン氏(神田外語大学)
講演2:「コミュニティの異なる母語場面参加者の調整行動:言語管理の多様性に係る序論的研究として」
中川康弘氏(中央大学)

ディスカサント:栁田直美(一橋大学)

近年、日本では多様な言語背景をもつ外国人居住者が増えてきており、接触場面における参加者の言語使用や、言語問題をめぐる言語管理も多様化しています。本分科会では続き多様化する接触場面参加者の言語使用や、母語場面での多様な言語管理の事例から接触場面研究を再考し、今後の課題を考えるという趣旨でお二人の先生をお招きし、話題提供をしていただきました。
サウクエン・ファン先生のご発表では、これまでの接触場面研究をめぐるいくつかの関連概念の整理や、外国語教育の流れの中における接触場面研究の問題意識と位置付けについて取り上げていただきました。
また中川康弘先生のご発表では、異なる母語コミュニティーに属する話者が日常の母語場面で、どのように母語を捉え、言語管理を行っているかをオーストラリアのベトナム移民の事例を中心に紹介していただきました。
当日会場には40名ほどの参加者があり、全体ディスカッションの時間では、母語の捉え方や多様性などについて参加者によるグループディスカションが行われ、今後の多様化する接触場面、母語場面研究の新たな課題について考えることができました。

2016年度の活動

2016年度 言語管理研究会 分科会合同研究会

日時:2016年12月17日(土)11時-17時
場所:青山学院大学青山キャンパス 総研ビル(大学14号館)10階 第18会議室

テーマ:接触場面の「母語話者」と「母語」から考える接触場面の変容

部会の趣旨:
今回の「接触場面と言語管理」の分科会では、これまでの接触場面研究の問題意識と課題を振り返りながら、新たな試みとして「母語」を切り口に接触場面の変容を考察することを試みる。とくに、これまで十分にとりあげることのなかった「接触場面の母語話者」と「多言語使用者の母語」に注目し、その事例研究を通し考えることで接触場面の変容や言語管理の課題を再考する。

発表1「本分科会の趣旨説明と問題提起―接触場面研究の問題意識と言語管理からとらえる接触場面の変容」
・・・・・・・・・・・・・・高 民定(千葉大学)
要旨:
本発表では、まず本部会の趣旨を説明し、本部会がグローバル化時代の多様化する接触場面をとらえるための視点や研究方法、課題を考えていくことを目的としていることを確認した。つぎに、接触場面研究について、その理論的背景をはじめ、主な視点、研究成果などを概観した。なかでも接触場面研究においての「場面」を捉える視点が従来の研究とどのように異なるかを確認するととともに、接触場面研究で注目してきた課題、とりわけ「接触場面のディスコース」と「接触場面のタイポロジー」、「接触場面のプロセス」、「接触場面の変容」について、その問題意識と主な研究成果を振り返った。なかでも、「接触場面の変容」は接触場面の多様な参加者の管理を示唆するもので、その実態を捉えていくことが今後においても引き続き重要な課題となっていることを指摘した。

発表2「接触場面における日本語母語話者の言語管理理―「母語」を意識化する作業を通して」
・・・・・・・・・・・・・・栁田 直美(一橋大学)
要旨:
本発表では、関東某市K区役所協力の下行った、「自治体の窓口における外国人対応の実態に関する縦断調査」をデータとし、(1)縦断調査中に行ったふりかえり活動が窓口対応担当者の意識面と言語行動面に与えた影響と、(2)「(逸脱への)留意」「評価」「調整」が、ふりかえり活動によって行われるようになるかを分析した。分析の結果、ふりかえり活動によって意識面の変容、つまり「(逸脱への)留意」「評価」に変容をもたらし、言語行動面の変容、つまり「調整」にも変容が見られることが明らかになった。このようなふりかえり活動は母語を意識化する作業であるといえるが、このような作業が言語管理理論のどこに位置づけられるのか、検討する必要性を指摘した。

発表3「多言語使用者の言語管理―「母語」を中心に」
・・・・・・・・・・・・・・福永 由佳(国立国語研究所)
要旨:
本発表では、多言語使用者である在日外国人の言語使用のうち、母語の使用や意識について分析を行った。分析に用いたのは、日本で生活を送るパキスタン人およびその家族(日本字配偶者を含む)を対象に実施した言語使用に関するインタビュー調査で収集したデータである。分析の結果、母語に対する肯定的な態度と否定的な態度の両面が見られ、さらに母語も言語の多様性と流動性の中に位置づけられることが示唆された。このような分析結果は言語管理の一例を示すものであるが、理論としての言語管理理論といかに連関するのかについては今後の課題として引き続き検討を進めていきたい。